メイン >> ゲスト作家紹介|9月












むかし私がまだ中学生だったころ、
近所に貧乏男子大学生のお兄さんがいて、
ロックのレコードをダビングしてくれたり、
いろいろと仲良くしてもらったことがある。
私は彼に……というか彼のサエナイ下宿生活にとてもトテモ憧れていて、
数年後、志望校を決めるときも下宿が第一条件だったりしたものだ。
坂口君を見ると、なぜかそのへんのコトを思い出す。
今はとっくに若者じゃなくなって、
マンション自治会の理事長をしたりしている私だけれど、
私にだって"青春"はあったのだよ。
日本という国にだって"青春"はあったのだ。
そう言えば、坂口君にしたってもう立派な大人なのだけれど、
なぜか彼にはこの"青春"ってコトバが似合うよなあ。
今回はそんなオハナシです。

「煙突」(作・演出/淵野尚)
機能低下は必ず来る。
やがて誰もが目と歯と腰と、そして頭脳に問題を抱えるようになる。
それはもう疑いの無い事実。
叫びたいほどの不安。でも誰も叫ばない。
ダッテ、モウワカクハナイカラ…。
冗談じゃない、と俺は思う。
あなたとふたり、濁った記憶の煙突にのぼり、
あったかどうか定かではない無用の街を見下ろす。
「いったい俺が何をした? 責任者出て来い!
そこに立て。こっちを見るな。
ボリビアには行かない。金の話も忘れろ。
今から俺の言うことを、一言残らず書き記せ。
そしてどこかの誰かに必ず伝えろ。
それが俺の、俺たちの要求だ。」


以前に一人芝居を一緒につくったことがあります。鳥人、浮田幸吉。世界で初めて滑空飛行に成功した人の話でした。極限状態の人間のおかしさ、悲しみを表現させたら右に出る人はいないと思います。今回もよろしくお願いします!
9月舞台写真 クリックすると拡大します
9月を終えてコメント
えー、『煙突』の芝居づくりは楽しかったです。特に難儀したコトもありませんでした。ほぼ思い通りのものが出来上がったと思います。
特に面白かったのは、坂口君の芝居づくりの方法が、私が今まで関わったどの役者さんとも違っていて、敢えて一番似てるヒトを挙げるとするなら、それは私自身だったと言うコトです。
そう言えば、私と坂口君はルックスが似ていた時期があって、鈴木田君の芝居では同一人物の役(違う時代の)を振られたコトもありました。やっぱ似てるのかねぇ?
それはさておき。
最近、さっちゃんの夢をよく見ます。さっちゃんと言っても、劇中で坂口君が演じた男ではなく、幼い梅の食事の世話をしていた女のさっちゃん。私の勝手なキャスティングでは大塚寧々なので、それはつまり大塚寧々の夢をよく見ると言うコトで、まことに結構なコトなのですが、夢の中で大塚寧々が何か言いたそうな感じなのですよ〜。根津甚八の夢はまだ見ませんが(新聞記者の役です)、どうやら近いうちに、2人のシーンを書き足した芝居を創らなければならないようです。それは『煙突・完全版』となるのか、全くの新作となるのかはまだ何とも申し上げられませんが、そのとき、また劇場でお目にかかりましょう。でわ!
今回、ドキドキしながらゲスト作演出として声をかけさせてもらった時、淵野さんは、ちょうどやりたいと思って温めていた作品があるんだよと快く引き受けて下さいました。
ただね、坂口くん、少し問題があるんだ。僕は何分まで使っていいの?温めている作品は90分の予定なんだよ。
いたずらっ子のような笑みを浮かべながら淵野さんはそういいました。結局「火曜日のシュウイチ」の上演スタイルの限界上、最大60分の約束でお願いしました。
稽古をしていて何度も思いました。淵野さんはなんて緻密に隅から隅まで計算しているんだろう。どこまで完璧な設計図が頭の中に広がっているんだろう。
ゲスト作家の一人としてお願いしたその瞬間から、淵野さんは完璧な指揮者でした。
今、やるべきことを全て把握している。僕はただ淵野さんの言われた目の前のことに飛びついていれば自然と芝居は仕上がっていってました。
そして初めての通し。本当に60分ジャストの芝居に仕上がっていた時にはただただ驚きました。なんせ秒単位でジャスト60分でしたから。
で、淵野さんはこういいます。
実は削った30分を足して完全版を上演したいんだよ。また一緒にやってもらえるかな?
淵野さん、もちろんですよ。僕はこの芝居を通してすっかり呑み込みの梅の、淵野さんのファンになってしまいました。この出来の悪い呑み込みの梅に、どんなホンでも現場でもツルツルーッと呑み込ませてやって下さい!

淵野 尚
1985年ごろ、大学の演劇サークルを母体とする
「劇団ちゃかぽこ調書」を旗揚げする。
だいたい10年ぐらい公演を続けて解散。
ちょっとして渡米。2000年くらいに帰国。
自主企画で短編集「ノンストップのほほん」「おまえがそれを愛というなら」を上演。一部で好評を博すも大赤字。現在に至る。